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鳥取地方裁判所 昭和31年(行)8号 判決

原告 西谷重幸

被告 鳥取県知事

主文

被告が昭和二十九年十二月二十七日なした倉吉市古川沢字赤子ケ池百七十五番畑三畝十歩(現在同所百七十五番一畑三畝五歩及び同所百七十五番二畑五歩に該当)に対する昭和二十七年九月十日附強制譲渡命令の一部取消処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、主文掲記の畑地は訴外西谷角市が昭和二十二年頃自作農創設特別措置法(昭和二十一年法律第四十三号)の規定により政府から売渡を受けた農地であるが、同訴外人は後に至つてこれを原告の畑と交換し自作に供することを止めたため、被告は、同訴外人の右畑地を自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令(昭和二十五年政令第二百八十八号、以下単に譲渡令という)第二条第一項第三号の土地と認め、同令に基き昭和二十七年九月十日これを前記訴外人から原告に強制譲渡する旨の命令を出し、原告は同月三十日適法に右土地の譲渡を受けたので、同土地のうち別紙図面の斜線の部分(面積十七歩)を除くその余の地域に農業施設を構築するため、間もなくその左(東)端AB線に石崖を築いた上、斜線部分の東端面積五歩の細長い土地を、附近に居宅を持つ前記訴外人のために、公道へ出入する通路の敷地に供するほか、残余の斜線部分を畑として自ら耕作の用に当てていたところ、同訴外人が後に右斜線部分を割取しようと企て、元上北条村農業委員会書記里見豊彦と共謀の上被告に対し、同部分の地目が総て道路であるとの虚構の事実を申告して前記譲渡命令中右部分の譲渡の取消を求めた結果、被告はこの申請に基いて昭和二十九年十二月二十七日「譲渡命令には主文掲記の土地の内当時既に道路に転用されていた十七歩を農地と認めた違法があるから、同命令中右十七歩の譲渡を命じた部分はこれを取消す」旨の譲渡命令の一部取消処分をした上これを原告に通知し、昭和三十一年三月五日原告に於てこの処分の通知を受けた。然しながら(一)譲渡を取消された斜線部分は譲渡当時畑であつて譲渡命令には事実の誤認がない許りでなく、(二)被告は譲渡命令の取消を認める法令上の根拠がないにも拘らず、(三)農業委員会を経由しない不正な申告に基いて、右の通り取消処分をなし、更に(四)取消令書には単に十七歩の譲渡を取消すとのみ記載しその地域の特定を欠いて居るのであつて、以上は何れも重大且つ明白な瑕疵であるから原告は右取消処分の無効確認を求めるため本訴に及ぶと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、主文掲記の畑地が昭和二十二年頃自作農創設特別措置法の規定により政府から訴外西谷角市に売渡された農地であること、被告が昭和二十七年九月十日右畑地を譲渡令第二条第一項第三号に該当する土地として原告に強制譲渡する旨の命令を出し、原告が同月三十日右土地の譲渡を受けたこと、被告が昭和二十九年十二月二十七日原告主張の如き理由と内容の譲渡命令の一部取消処分をした上これを原告に通知したことは認めるが、その余の原告の主張事実はすべて知らない。瑕疵ある行政処分を取消すには法令の根拠を要しない。また取消令書の記載と土地の現況で十七歩の範囲は明確であると述べた。(立証省略)

理由

主文掲記の畑地が訴外西谷角市に於て昭和二十二年頃自作農創設特別措置法の規定により政府から売渡を受けた農地であること、被告が右畑地を譲渡令第二条第一項第三号の土地と認め、同令に基き昭和二十七年九月十日これを前記訴外人から原告に強制譲渡する旨の命令を出し、原告は同月三十日この土地の譲渡を受けたこと、ところで被告が昭和二十九年十二月二十七日「譲渡命令には主文掲記の土地の内当時既に道路に転用されていた十七歩を農地と認めた違法があるから、同命令中右十七歩の譲渡を命じた部分はこれを取消す」旨の譲渡命令の一部取消処分をした上これを原告に通知したことは当事者間に争がない。

そこで右取消処分の適否について判断するに、譲渡令第二条第一項第三号により強制譲渡の対象となる土地は、同号所定の自作農創設特別措置法の条規によつて売渡された農地であれば足り、強制譲渡の際その土地が必ずしも農地の外況を具える必要がないこと同号の趣旨と文言に照し明瞭であるから、被告がいわゆる創設農地である主文掲記の土地を原告に対し強制譲渡する際、仮令面積十七歩に亘る部分が既に道路に転用せられていた事実があつても、斯様な事実は何ら譲渡命令を違法ならしめる瑕疵と認めることはできない。ところで被告も、本件訴訟に於て、前記の取消処分は当時譲渡命令を譲渡令第二条第一項第四号による強制譲渡と考えた被告の誤解に基く行為であると釈明し、他に右取消処分に正当理由あることを主張立証しないから、結局被告は何ら理由なく譲渡命令の一部を取消したことに帰する。右は結局本件取消処分に重大且つ明白な瑕疵が存する場合に該当すると認められるから、原告主張の諸点について判断するまでもなく、右取消処分は無効である。

よつて原告の本訴請求は正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 胡田勲 浜田治 古市清)

(別紙省略)

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